STLOGスタログ

2021.06.08

【DXは、神様である?Vol.5】DXも、大切なのは「人の想い」

DXというと、大規模なシステムを導入しなければいけないと考えていませんか? もちろんそれもDXですが、目線を少し変えるだけで、もっと身近なところから始められます。大切なのは、従業員や顧客が参加したくなる仕組みを作ること。ここではアパレルブランドと三和交通の事例を通じて、DXを考えてみます。

【DXは、神様である?Vol.5】DXも、大切なのは「人の想い」
目次

    DXにおいて大切なのは、人の想い

     DXは、IT化の枠を超えて、業務そのものをテクノロジーの力で変革させていこうという取り組みです。先日、政府が発表したデジタル庁の発足が話題になりましたが、政府も本腰を入れて取り組むほど重要になっているのが本テーマ。働き手方改革や付加価値の創出を考えたとき、より魅力的で価値あるサービスの提供には、テクノロジーの有効活用が不可欠なのです。
     そういった状況のため、DXと聞くと予算と時間がかかる大変なもの……と思いがちですが、決してそんなことはありません。もちろん一気に投資をして、大規模に業務を変革してくのであれば、予算は相応に増加しますが、そういった取り組みだけをDXと呼ぶのではありません。
     DXも人が使うものですから、あくまで大切なのは、使いやすいデザインや仕組みになっているかという観点と、そこに関わる人の想い。たんにテクノロジーを取り入れただけでは、DXは成功し難いのです。

    従業員のITリテラシーを高めることもDX!?

     最近では、従業員が在宅ワークをするケースも増えてきました。それにより従業員の時間が増え、積極的に自社のSNS更新に参画したり、オウンドメディアやサービスサイトに登場したりするケースが増えています。
     あるアパレルブランドの場合は、社員の私服姿をコーディネートの提案としてInstagramや自社ECサイトに投稿。時節柄はもとより、ビジネスやプライベートなど、その時々に応じた服装を考えることにより、コンテンツの拡充を図っています。
     この取り組みを始めた当初は、従業員によってITやSNSのリテラシーに差がありましたが、誰もが使いやすいように商品記事の投稿画面もよりわかりやすいものに作り直したり、投稿の講習を行ったりすることによって、今ではほとんどすべての従業員がストレスなく投稿できるようになりました。
     DXというと、なんだか少し遠い世界のように感じてしまいますが、これも立派なDXの入り口。むしろDXは、ITリテラシーの高くない方々もストレスなく使いこなせるようなデザインやサービス設計を追求しなければいけません。従業員、場合によっては顧客も参加してこそ、初めてその本領を発揮するのです。

    逆転の発想で、DXを体験に変えたタートルタクシー

     実際に、従業員はもとより顧客もDXに参画することで、提供するサービスそのものを「コトの体験」に昇華した好例として、三和交通の取り組みがあります。
     三和交通はタクシー会社なのですが、近年になって「タートルタクシー」というサービスを始めました。このサービスはなんと、「あえて遅く走るタクシー」という逆転の発想をついたサービスです。
     タクシーに乗るくらいですから、乗客はみんな急いでいるのではないかと思ってしまいますが、アンケートの結果は意外にも約70%の乗客が、「別にいつも急いで目的地に行く必要はない」と答えたそう。考えてみれば、自分自身もタクシーを使うときは、急いでいる状況より、「歩き疲れたから」とか「のんびり座って、少しでも休憩したいから」「人が多い電車に乗りたくないから」とか、そういった理由が多いように思います。
    そのような乗客の本音から着想を得て生まれたのが、この亀のようにのんびり走るタートルタクシーなのです。

    ボタンを置くというシンプルな仕掛けが、乗客の体験につながる

     このサービスの面白い点は、後部座席の目の前にボタンを設置することで、乗客の体験を促しているところ。
    「今はそんなに急いでいないので、ゆっくり丁寧に運転してほしい。でも、運転手さんに直接そうとは言いにくい」。こんなモヤモヤを感じたことのある方は、少なくないと思います。そういったことを感じた乗客が「ゆっくりボタン」を押すと、その旨が運転手に伝わり、フロントガラスに「ゆっくり走行中」と書かれたパネルが表示。ゆっくり走行を開始します。目的地に到着したら、ゆっくり運転をした距離が記載されたサンキューカードが運転手から乗客に渡されるという仕組みになっています。
     のんびり、急がず走ることは、乗客の心にゆとりを生み出すのみならず、エコドライブにもつながります。必要以上に早く移動するという「ムダ」を削減することで、乗客と地球に優しいサービスを展開しているのが、タートルタクシーの妙と言えるでしょう。

    コミュニケーションの枠を超えて、サービスそのものを創造

     タートルタクシーは、運転手に意思を伝えるというコミュニケーションを、たんにテクノロジーで代替したのではありません。ボタンのUI、またボタンを押してゆっくり走行を行うというUXも含めた全体設計のなかで、テクノロジーを効果的に活用することで、サービスそのものを作り上げたのです。
    まさに人の想いとテクノロジーが掛け算されたDXと言えるのではないでしょうか。現在は、「モノからコトへ」といった体験を重視するコト消費が話題ですが、そういった観点にも通じるものがあります。
     すべてをテクノロジーで完結させようとして、大きなシステムを導入したのはいいものの、顧客はもとより、従業員も使いこなせないといったケースが意外に少なくありません。しかし、タートルタクシーの場合はボタンを押すだけ。初めて乗った乗客にも一目でわかるデザインで体験を促しているのです。

    技術力に「人」が掛け算され、DXは完成する

     三和交通は他にもタクシードライバーが黒子の格好で業務をする「黒子のタクシー」や、多摩地区の新選組のゆかりの地を探る「THE 新選組ツアー~多摩編~」といった企画を催したり、YouTubeでの動画配信などを積極的に行なったりしています。コモディティ化しがちなタクシーという領域でも、自社のPRやブランディングに余念がなく、アイディアでこれだけの差別化ができるのかと驚かされます。
     DXというと、難しいものや複雑なものを考えてしまいますが、タートルタクシーのようなシンプルな仕掛けも、立派なDXの取り組みのひとつ。大切なのは、テクノロジーを用いて、従業員も、顧客も参加したくなる仕組みを作ること。技術だけにとらわれるのではなく、人の想いやコミュニケーションを考えることで、サービスやデザインを設計していくのが大切だと言えるでしょう。

    _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
     最後までお読みいただきありがとうございます。<DXは神様である?>シリーズ、第5回でした。次回、第6回の更新でDXに関する連載はいったん最終回となる予定です。過過去記事の振り返りと併せて、ぜひご覧ください!

    <過去の記事はこちらから>
    【DXは神様である?】なぜ今、DXなのか、 そしてブランディングからDXをどう捉えるの?
    【DXは、神様である?Vol.2】働き方だけじゃない。変わる企業と顧客の関係性
    【DXは、神様である?Vol.3】DXを始めるときに、推進部門が考えるべきこと
    【DXは、神様である?Vol.4】自社にしかできないDXを実現するために

    同じカテゴリーの記事

    Stylement Official Instagram

    ディレクター、デザイナー募集中! 採用情報へ