【なぜ変える?どう決める?】デザイン会社が振り返る、自社ロゴのリニューアル全行程
はじめに
企業にとって「ロゴ」とは、単なるマーク以上の重要な意味を持ちます。それは、企業の顔であり、顧客や社会とのコミュニケーションの起点となるものです。
多くの企業にとって切り離せない存在ですが、ロゴ制作の具体的な進め方や、社内での意思決定プロセスが語られる機会はあまり多くありません。
今回は、私たちスタイルメントが自社のロゴをリニューアルした際のプロセスを、できる限りオープンにご紹介します。自社のプロジェクトだからこそ見せられる、課題認識や判断の裏側まで踏み込んだ内容が、ロゴ制作やリニューアルを検討されている方のヒントになれば幸いです。
なぜロゴを作り直すのか?
スタイルメントは1997年設立で、今年で29年目になります。 そして現在のロゴを作ったのはちょうど10年前、創業して20年近く経過した時期でした。
創業から20年近くも経つと、ロゴのデザインも時代に合わなくなってくることもありますが、それ以上に時代の変化に伴って事業領域も少しずつ変化してきたことで、ここで一旦私たちのブランドを再確認して、進むべき方向性をしっかり定める必要がありました。
いわゆる会社のブランディングが必要になったことで、ロゴも変えようということになった次第です。
そんなわけでロゴデザインリニューアルの社内プロジェクトがスタートし、デザインチームのメンバーがアサインされました。 社内プロジェクトにおいても、通常のクライアント案件と変わらないプロセスで進行していきます。
自社ブランドの価値とターゲットの再定義
ロゴは、ブランドの「価値」を視覚的に表現するものです。 そこで、まず自社のブランド価値を掘り下げ、再定義することから始めました。
- 事実・特徴: 私たちが提供しているサービスは何か。
- 機能的価値: それによって顧客は何を得られるか。
- 情緒的価値: 顧客はどのようなポジティブな感情を抱くか。
- 社会的価値: 私たちの存在が社会にどう貢献するか。
- コアターゲット: 私たちは誰に最も価値を提供したいのか。
この価値規定を経て、スタイルメントの「ブランドパーソナリティ(人格)」を次のように規定しました。
「デザインの力で企業と人々の暮らしをつなぐ、経営者のパートナー」
「企業の課題をデザイン面からサポートするアイディアマン」
この「パートナーであり、アイディアマン」という人格が、新しいロゴデザインの核となっていきます。

市場と現状の徹底分析
次に、市場と自社の現在地を客観的に把握するための分析を行いました。
- 競合他社のロゴ分析
同じ規模や事業領域を持つ競合他社をピックアップし、そのロゴデザインをマトリックス上に配置することで、デザインの傾向やポジショニングを視覚化しました。 - ロゴのトレンド分析
世の中のロゴデザインのトレンドを分析し、長く愛されるロゴの傾向を探りました。 - 現状ロゴの分析
既存のロゴを「構成要素」「機能性」「感情面」の3つの軸から客観的に分析し、引き継ぐべき点と改善すべき点を洗い出しました。

アイディア出しとカテゴライズ
以上の分析を踏まえ、デザインのアイディア出しを始めます。 社内公募の形でデザイナー全員からアイディアラフを募り、ブレインストーミングを行いました。
集まった膨大な数のラフは、モチーフやキーワードごとにカテゴライズし、どの方向性がブランドパーソナリティを最もよく表現できるか議論を重ねました。

デザインの方向性決定
価値規定と競合調査、それを元に作成したアイディアラフを社長にプレゼンテーションしました。 ここでは、デザイン案そのものを選ぶというよりは、「デザインの方向性をどうするか」を経営陣とすり合わせることが目的です。

このプレゼンを経て、スタイルメントのロゴデザインの方向性は以下のようになりました。
- ユニーク&シンプル、少しの遊び心
- 基本形はシンボルマークとタイプフェイス(文字要素)のコンビネーションロゴ
- ブランドパーソナリティと関連するキーワードをモチーフとする
例えば社名の頭文字「ス」「S」、「ハート」「パートナー」「フラッグ」「スマイル」など - どんな環境や媒体(Web、印刷物など)でも再現しやすく、可読性が高いこと
- 社名の一部でもあるエンタテインメント性、他社との差別化、そして旧ロゴとのイメージの継承を考慮して、基調色には「蛍光ピンク」を使用する
この方向性に合致しそうな案を、アイディアラフの中からいくつかピックアップします。
デザインのブラッシュアップと決定
選ばれた複数のアイディアラフ案を基に、デザインをブラッシュアップし、サイズ展開に対応できるようにベクターデータ化していきます。 名刺や封筒などに実際に展開したイメージも作成します。
そして、第二回目の社長プレゼンを実施。 ここでデザイン案を最終的に1案に絞り込み、細かな修正意見をヒアリングします。

寄せられた修正意見を反映し、さらにデザインの精度を高め、社長の最終決済を経て、ついに新しいロゴが正式に決定しました。
- シンボルマーク
社名の頭文字であるカタカナの「ス」を単純化した形を採用。縁起の良い数字「7(ラッキーセブン)」にも見える形となっており、二重の意味を持たせています。また、右上を指し示す動きが企業として右肩上がりの成長を願う気持ちも込めており、力強くシンプルで覚えやすい形状です。 - タイプフェイス(文字要素)
モダンでシンプルなサンセリフ書体「DIN」を基調としながら、ディテールを若干カスタマイズし、さりげないオリジナリティを主張しています。
ロゴは「作って終わり」ではない
決定したロゴを正しく、一貫したイメージで使っていくために「ロゴ運用マニュアル」を作成しました。 その後、名刺、封筒、クレドカード、会社案内、カレンダー、ホームページなど、あらゆるビジネスツールへ展開し、ブランドイメージの統一と社内の意思統一を図っていきます。


企業の成長ステージに合わせた運用の最適化
ロゴは完成した瞬間がゴールではなく、企業の成長に沿って最適化していくものです。そして「最適化=ロゴを作り直すこと」とは限りません。使用カラーの見直し、余白ルールの再設定、デジタル・アナログ向けバリエーションの追加、ガイドラインの更新など、運用面の細やかな調整によってブランドの見え方を進化させることもできます。ロゴの根幹にある思想を守りながら、変化に柔軟に対応するための手段です。
スタイルメントでも、ロゴを作り直してから数年後、2025年に自社のWebサイトをリニューアルしました。その際、事業領域の広がりに合わせ、ロゴの基調色だった蛍光ピンクを、より普遍的で力強い「黒」へと変更しています。ロゴの形はそのままに、カラーという一つの要素を調整することで、事業フェーズに合った印象へアップデートしました。これも、企業の成長ステージに合わせたデザイン最適化の一例です。
10年後も愛されるデザインのために
スタイルメントのロゴを作り直してから、今年でちょうど10年が経過しました。 10年という歳月が経った今でも、このロゴは古くならず、デザインとしてのクオリティを維持していると自負しています。
それはきっと、その時々の思いつきや感覚だけで作ったものではないからです。 自社の価値を徹底的に見つめ直し、競合を分析し、多くのアイディアを出す。そしてデザインの方向性を定め、細部までしっかりと考え抜く。 そうしたプロセスを経たからでしょう。
この先、私たちスタイルメントがどう成長していくか。 次の10年も変わらずお客さまに愛されるパートナーであり続け、そのシンボルとしてロゴが役に立っていけるか。この記事を執筆する過程で、ロゴを作った当時の熱量やデザインに込めた想いを改めて思い返すことができました。
このモチベーションは、他社のロゴをデザインする場合も、変わりません。 自分たちが所属する会社のロゴのように真剣に考え抜き、より良いものを作る。 それが、私たちデザイナーの基本姿勢であり、作法でもあるのです。