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NHKアーカイブス「みちしる」が示す
ユーザー主体の”ウェブサービス”とは何か

日本放送協会×日本アイ・ビー・エム×スタイルメント

NHK映像マップみちしる~新日本風土記アーカイブス~ 2011年7月にオープンしたNHKアーカイブスによる新しいウェブサイト「NHK映像マップ みちしる」が好調なスタートをきった。 本サイトは、日本地図をベースに膨大な番組映像を紹介し、それをユーザー目線で楽しむことができる、本質的な意味で、ウェブと放送の相互エンタテインメントを実現した画期的なサイトの制作秘話を語った。

NHKアーカイブス「みちしる」が示す ユーザー主体の”ウェブサービス”とは何か

動画を楽しむ新サービス 「みちしる」の誕生

 

村:2011年7月、NHKのウェブコンテンツ「みちしる」がオープンしました。ここではその新しい発想のウェブサイトの全容とユーザーの反応、そして今後の展についてじっくり伺いたいと思っています。あらためて「みちしる」とはどういうサイトなのでしょうか?

清水:「みちしる」は、日本全国の自然、文化、歴史などを紹介する映像を、日本地図の上に載せて表現した動画配信サイトです。地名や気になる地域、カテゴリー別、ユーザーの評価別や特集別など、様々な視点で動画を探し、映像コンテンツを楽しむことができます。

岩崎:ただ動画をたくさん並べただけではユーザーが集まらないと分かっていたので、次から次へと動画を再生したくなる新しい仕掛けがこのウェブサイトには必要だと考えていました。とにかくありきたりな見慣れたホームページにはしたくありませんでした。

清水:このサイトは動画配信が目的であると同時に、地図そのものを楽しむ仕組みなので、訪れるユーザーの関心は毎回異なるはずですし、使い手の主体性を引き出すサイトになっていると思います。クリップの数も、オープン時は410本でしたが、今年度末までには1,500本に達する予定です。

早野:410本の動画はランダムに表示され、同じユーザーが何度このサイトに訪れても、常に新しい地域や動画に出合うことができます。ある日の会議で、全国偏りなく動画が配置されている日本地図を見て、ユーザーを飽きさせないコンテンツとして完璧だと感じました。

野村:実際に公開後のユーザーの反応はいかがですか?

清水:「みちしる」について触れた個人のブログを読むと、ニュートラルにNHKの番組に接してもらっているように感じます。ユーザーにとってはNHKのアーカイブが載っている地図という位置づけのようで、番組広報でもなく、視聴者参加型番組の応募ツールでもない、NHKと視聴者の新しい関係性を築き始めたウェブサイトかもしれない、と感じています。

早野:私は、NHKライツ・アーカイブスのウェブを担当する方から、「どう使うのかわからない」という意見が出たと聞き、成功を確信していました。まったく新しいものが世に出たとき特有の反応だったので、「これはいける!」と直感しましたね。

野村:地方局からのフィードバックや、社内での評判はいかがですか?

清水:さっそくローカル局の番組を「みちしる」に載せて全国版コンテンツとしたいとか、地域のホームページとリンクさせたいという声があがってきています。

ITの仕事に挑んだ「みちしる」の制作過程

清水:プロジェクト発足当初、あまりにも配信する動画のテーマが多岐に渡るので、ひとつにまとめられるコンセプトをずっと模索していました。そんな中、IBMさんとスタイルメントさんから“トップページのほぼ全面が地図”というサイトのデザイン案を頂きました。もともと地図という斬り口はなんとなく頭にあったのですが、トップページが全部地図という案はまさに目から鱗で、地図をベースにすればどんなクリップも載せられるし、予想を遥かに超えたアイディアで、これこそ今回の企画にベストな案だと思いました。

野村:企画段階では、現在の反響を想像していたのですか?

清水:いえ、想像以上の反響ですね。テレビの番組やニュースの制作にあたってきたので、コンテンツに関することは見当がつくのですが、ウェブについてはノーアイディアに近い状態でした。ですから動画を載せるためのコンセプトから、IBMさんとスタイルメントさんにお願いしたわけです。

早野:今回のプロジェクトにおいては、二つの柱を立てました。ひとつは、普通のウェブではなくウェブサービスをつくること。もう一つは、全国津々浦々の素晴らしい映像をくまなくユーザーに見てもらう仕掛けをつくることです。野村さんにも、“ウェブサービス”を組み込んで上手くデザインに落とし込んでほしいとお願いしました。

岩崎:システム・プログラム構築、動画編集、デザインと、複数のチームが関わっていて、それらを重層的に組み合わせることも大変でしたね。

早野:週1回のミーティングで、「みちしる」の方向性を各々の立場から咀嚼し結論づけなければ進まないので、私は仕切りに徹しました。

清水:スムーズに進行するまでには時間がかかりましたね。私はシステムのことが分からなかったので、発言ひとつとってもストレスに感じることが多かったです。振り返ると、そこが一番難しかったのかもしれません。今回のプロジェクトを通じて、コンテンツは単に素材の一つにすぎず、それに、いくつもの技術的な仕組みを組み合わせてはじめてサービス全体が成立するのだということを体感しましたね。

テクノロジーとデザインのバランスを実現

早野:私がスタイルメントさんをパートナーに選んだのは、ウェブサービスとシステム構築の経験があるからでした。技術的に解決できなければ何も進まないことを理解したうえで、テクノロジーとデザインのバランスが取れているからです。

野村:今回はシステム全体の負荷を軽くするという命題があり、何でも自由にできるわけではありませんでした。技術制限がある中で、最新のテクノロジーを駆使した設計を目指しました。

岩崎:ユーザーの負荷は軽いけれど、押して何秒で出てくるとか、小ワザをたくさん盛り込んで、使いやすいインターフェースにこだわりました。

清水:ウェブの使い勝手を熟知した方々と制作したことが成功した秘訣ですね。

大震災がサイトをより前進させる結果に

清水:当初は3月16日がオープン予定でしたが、東日本大震災の影響で一度白紙になりました。そのとき予定していたクリップには被災地域に関する映像もあり、状況確認のために、ひたすら2週間くらいブログや新聞社の報道を検索しました。
「城跡が残っていてよかった」というコメントや、ラムサール条約に登録された湿地の震災後の写真などを個人のブログで見つけ、だんだん確認が進み、オープンの見通しがつきました。と同時に、日本は、これだけ多くの人々がWebを介して発信する社会なんだと再確認できました。そこで、サイトをオープンさせるまでに、投稿機能を充実させたいと思ったのです。はからずも、震災がきっかけとなって、サイトのあり方を見直すことになりました。

野村:震災後の会議では、清水さんにユーザーとしての目線が育っていて、サービスを縮小するどころか拡張するという攻めの姿勢でしたね。

早野:ウェブの土俵で勝負していることがユーザーにも伝わっていて、好感をもって受け入れられていると思います。

ウェブアーカイブスの可能性と「みちしる」の今後

野村:今後「みちしる」はどのように成長、発展していくのでしょうか?

岩崎:まずは、「みちしる」で『新日本風土記』の映像を見たユーザーを、編成のウェブページへつないだり、番組ホームページに導くことが次の課題です。見た目には完結したひとつのサイトですが、システム内のプログラムは機能的で、「みちしる」の地図や動画を各番組サイトに使えるような仕組みにしてあるので、NHKのホームページ内でのマッシュアップができるといいですね。

清水:そうなって初めてアーカイブスを視聴者のみなさんにきちんと還元していけると思いますし、ユーザーの動きを見ていると、よりデータベース的な役割を担うようなコンテンツが求められていると感じています。

岩崎:NHKのアーカイブスは、視聴者の方にとって、記憶を共有できるツールのひとつです。私たちが提供するクリップに自分の体験を重ねて、記憶のデータベースへと膨らませられるサイトに育てていきたいと思います。

早野:「みちしる」は、現在はNHKのライツ・アーカイブスセンターが担当するいちプロジェクトですが、ビジネスモデルとして考えると、すごく尖がっているのです。サイトがあり、ユーザーがいて、その間にウェブサービスがあるという理想的な姿を実現できています。これは今企業側の関心が最も高いウェブ戦略なんです。

野村:それに投稿が集まれば、コンテンツを挟んでNHKとユーザーが自然に対話をするはずですね。将来的に、新たな放送という枠組みの方向性が見えるかもしれません。とはいえ来年や再来年と近い将来に実現したいことはありますか?

清水:近い将来にはトップページ上で、できることをもっと増やしたいです。階層を潜らず平面を動いて、よりダイレクトにクリップを探せるイメージです。もう一つは遊びの要素。私たちが選んだ映像を見せるだけでなく、ゲームのような検索仕掛けをつくってお宝映像が見られるようにしたり。順調なスタートを切ることができたので、ゆっくりでも、可能性をつぶさずに大切に、次の段階へ持って行きたいと思っています。

<取材協力>
日本放送協会(NHK)
http://www.nhk.or.jp//

日本アイ・ビー・エム株式会社
http://www.ibm.com/jp/

株式会社スタイルメント
http://www.stylement.co.jp/


※「みちしる」を共に作り上げた制作者による対談のため、敬称を略しています。
※こちらの記事は2011年12月発行の「WEBプロ年鑑'12」掲載記事を元に再構成しました。

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